【特集】錦繍(きんしゅう)の山々と名湯の邂逅

秋から冬にかけての箱根は、息をのむような彩りに包まれ、日本の秋をたっぷりと味わえる自然美の宝庫です。山々は燃えるような紅葉に彩られ、澄み切った空気が景色の輪郭を鮮やかに際立たせます。

標高差のある箱根では、10月下旬から12月上旬にかけての期間にわたり紅葉を楽しむことができます。この季節だけの絶景を求め、自然あふれる箱根の散策に訪れてみてはいかがでしょうか。目を奪われるような秋冬の絶景スポットを5つご紹介します。

箱根の山あいを縫うように流れる早川渓谷は、紅葉の名所として広く知られています。深く切り立つ谷の両岸には、赤や黄色に色づいたカエデやヤマモミジが目を奪われるような美しさを見せてくれます。

箱根登山電車の車窓から紅葉を眺めるのもおすすめです。塔ノ沢駅から大平台駅方面へ向かうと、数分で早川橋梁に差しかかります。山岳列車に揺られながら美しい山々の表情を眺めるひとときは、忘れがたい旅の思い出となるでしょう。

渓谷沿いには、堂ヶ島温泉や塔ノ沢温泉といった名湯が点在し、旅の疲れをやさしく癒してくれます。箱根の玄関口にある湯本温泉もすぐ近くです。

紅葉に包まれる「堂ヶ島遊歩道」の散策も、早川渓谷で人気のアクティビティのひとつです。堂ヶ島温泉から渓谷に沿って木賀温泉まで歩くコースは30～40分ほどの短距離ながら、深山幽谷の趣をたたえた散策路となっています。なお、滑りやすい箇所もあるため、歩きやすい靴でのお出かけをおすすめします。

1952年に開館した「箱根美術館」は、箱根最古の美術館として知られ、四季折々の美しい景観に恵まれています。なかでも秋の紅葉は別格で、和風建築の風情を生かした庭園空間も見どころのひとつです。国指定名勝の庭園「神仙郷」には、築山や渓流、滝を配した「石楽園」、約130種類の苔と200本以上のモミジが調和する「苔庭」、そして美術館へと続く「竹庭」などが配されています。

庭園内には、国登録有形文化財である「神山荘（旧藤山雷太別荘）」をはじめとする趣深い建築物も点在し、文化と自然が響き合う空間が広がっています。とりわけ「苔庭」は、箱根有数の紅葉の名所となっています。緑の苔と赤や橙色の木々が織りなす風景は、日本の幽玄美そのものといえるでしょう。「苔庭」を望む「真和亭」では、紅葉を背景にお抹茶と和菓子を味わうことができます。

館内には、日本の伝統的な陶磁器や工芸品などが展示されています。芸術鑑賞と自然の美を同時に楽しむ、贅沢なひとときをぜひ体験してみてください。

また、徒歩圏内に位置する強羅温泉は、個性豊かな泉質を誇る名湯地です。温泉宿や日帰り入浴施設が軒を連ね、にごり湯や源泉かけ流しの湯など、趣の異なる名湯を楽しむことができます。

大涌谷は、ダイナミックな火山活動を肌で感じられるエリアです。箱根火山の中心に位置し、温泉供給や観光の要所となっています。荒涼とした大地から立ちのぼる噴煙や、硫黄の香りが漂う独特の景観からは、自然の力強さが伝わってきます。

特に秋冬は空気が澄み、噴煙の眺めも一層ダイナミックになります。早雲山駅から大涌谷駅へと向かう箱根ロープウェイからは、白煙を上げる荒々しい山肌とナナカマドやカエデの紅葉が織りなすコントラストに、思わず息をのむことでしょう。眼下に広がる噴煙地帯や、遠くに望む富士山など、見渡すかぎりに広がるパノラマは、空中散歩ならではの絶景です。また、2025年4月には駅前広場が「ちきゅうの谷」として生まれ変わり、体験型展望台が話題を集めています。

「大涌谷くろたまご館」を訪れた際には、名物の「黒たまご」もぜひご賞味ください。温泉の熱と硫黄成分で茹でられたこの卵は「1つ食べると7年寿命が延びる」といわれ、人気を集めています。

また、大涌谷へのアクセスが便利な温泉地としては、強羅温泉や仙石原温泉が挙げられます。特に強羅温泉は、箱根登山電車から箱根登山ケーブルカーへと乗り継ぐ要所にあり、大涌谷観光の拠点としてもおすすめです。

秋の芦ノ湖は、穏やかな湖面と紅葉で彩られた山々、そして富士山との調和が生み出す絶景に包まれます。特に、鏡のような湖面に映る逆さ富士の美しさは格別で、湖畔にたたずむ箱根神社の「平和の鳥居」とともに、神秘的な風景を描き出します。

芦ノ湖の観光では、湖上からの眺望を楽しめる遊覧船が人気です。「箱根海賊船」が湖面を行き交い、元箱根港や箱根町港、桃源台港などを結んでいます。船上を渡る風は爽やかで、空と湖の青、山々の紅葉、遠くに望む富士山が織りなす景色は、心まで晴れやかにしてくれることでしょう。ゆったりとした船旅のひとときに、秋から冬へと移ろう季節の風情を味わってみてはいかがでしょうか。

自分のペースで湖上散歩を楽しみたい方には、貸しボートの利用もおすすめです。芦ノ湖は、ワカサギやニジマスなどの釣りスポットとして、多くの釣り好きの方々にも親しまれています。

湖畔の散策にも、秋冬ならではの魅力があります。木々の葉が落ち始める頃は視界が広がり、開放的な気分で自然に触れることができます。

また、芦ノ湖温泉の多くの宿では、湖や富士山を一望しながら湯浴みを楽しむことができます。静けさに包まれた湯の時間は、心に残る贅沢な体験となることでしょう。

標高804mの浅間山（せんげんやま）には、比較的気軽に登れるハイキングコースが複数あります。秋から冬にかけては一段と空気が澄み、遠く相模湾までのパノラマを一望することができます。

登山道の途中に位置する「千条の滝（ちすじのたき）」は、幅約20mの岩肌をすだれ状に水が流れ落ちる、風雅な景観をたたえた滝です。水の流れは静けさをまとい、訪れる人の心を穏やかに潤してくれます。

アクセスは、箱根湯本駅から箱根登山電車で小涌谷駅で下車。駅からハイキングコースに入り「千条の滝」を経て浅間山を周回し、小涌谷に戻るルートは約4kmです。さらに足を延ばし、浅間山から湯坂山を抜け、箱根湯本駅まで歩くコース（約6.5km）もあり、どちらのルートも体力に合わせて選べる初心者向けのコースです。特に小涌谷駅を起点とする周回ルートは、気軽に箱根の自然を満喫できる散策コースとして親しまれています。

山頂からは、芦ノ湖や大涌谷といった主要観光スポットに加え、天気の良い日には遠く三浦半島や房総半島までをも見渡せる絶景が広がります。紅葉に染まる360度の大パノラマを、心ゆくまで味わってください。

登山の起点となる湯本温泉は、箱根七湯では最古の歴史を有する温泉地です。アクティブに過ごした一日の疲れを、やさしく癒やしてくれることでしょう。

錦繍に彩られた山々が、やがて雪景色へと移り変わる秋冬の箱根は、まさに絶景の宝庫です。早川渓谷の清流に耳を傾け、箱根美術館では苔庭の静寂に身をゆだね、大涌谷では地球の鼓動に触れ、芦ノ湖の雄大な景観に目を奪われ、浅間山の山頂からは箱根一帯を一望するパノラマに感動することうけあいです。

一日の終わりには、湯けむりが立ちのぼる温泉宿で静かなひとときをお過ごしください。身を沈める湯のぬくもりと、窓越しに揺れる紅葉の気配が、心の奥深くにそっと染み渡り、それはまさに「名湯との邂逅（かいこう）」と呼ぶにふさわしい、忘れがたい出会いとなることでしょう。

風情豊かな名湯と紅葉が彩る箱根で、心ゆくまで秋冬の自然を堪能する。そんな贅沢な旅へと足を運んでみてはいかがでしょうか。