箱根湯本にある熊野神社は、奈良時代に湧出(ゆうしゅつ)が記録された箱根最古の源泉「惣湯(そうゆ)」を社殿の下に抱える、由緒ある神社です。
このお社に祀られている「ゆや権現」は、温泉の守護神とされる「熊野速玉大神(くまのはやたまのおおかみ)」で、紀伊・熊野三山のうちの一柱です。湯本温泉の開発に際し、地域の鎮守の神様として熊野からこの地に迎えられたと伝わります。
また、熊野を音読みにすると「ゆや」になることから、温泉の“湯”と関連付けて「ゆ(湯)や権現」として祀ったのであろうと、江戸時代の地誌「七湯の枝折(ななゆのしおり)」に記されています。
箱根温泉に感謝を捧ぐ!湯本熊野神社「神湯祭」
「HAKONEIKU」 箱根温泉に感謝を捧ぐ!湯本熊野神社「神湯祭(しんとうさい)」
箱根湯本に鎮座する熊野神社では、毎年9月9日に、温泉の恵みに感謝を捧げる「神湯祭」が執り行われます。
奈良時代に発見された箱根最古の源泉「惣湯(そうゆ)」にまつわる伝統行事で、温泉の恩恵と無病息災を祈る箱根ならではの例祭です。
この記事では、信仰と文化が息づく「神湯祭」の魅力をご紹介します。神事に合わせて箱根を訪れてみてはいかがでしょうか。きっと心に残る貴重な体験となることでしょう。
Contents
温泉の神様「ゆや権現(ごんげん)」
見どころ➀ 白衣の乙女が湯を汲む、神聖な「湯汲神事」
神湯祭における見どころの一つが「湯汲(ゆくみ)神事」です。巫女が神社の境内に湧く「惣湯」から清らかな湯を汲み、神前へと捧げる神聖な儀式です。
神前に運ばれる「惣湯」は、箱根最古の源泉です。何百年もの長きにわたってこんこんと湧き続ける貴重な湯は、箱根を支える聖なる存在といえるでしょう。源泉は単なる水ではなく、人々の暮らしを支え、旅人を癒やし、地域を潤すかけがえのない恵みです。
湯汲神事の意義は、源泉の奉納を通じ、その尊さを五感で感じることにあります。
神事では温泉の恵みへの感謝とともに、無病息災を願う祈りが捧げられます。神職による祝詞奏上や巫女舞の楽の音が境内に響き、清らかな時間が静かに流れていきます。
見どころ➁ 温泉の恵みを分かち合う「温泉分湯授与式」
神湯祭ではもうひとつ大切な儀式があります。それが「温泉分湯授与式」です。
地域の旅館や家庭が温泉を持参し、神社にお供えすることで、温泉の恵みを広く分かち合おうとする儀式です。
湯を供えることで、一年の無病息災や地域の繁栄を祈願し、改めて自然の恵みへの感謝を深めます。授与された温泉は、地域の家庭に持ち帰られ、家族での入浴やお清めに使う風習も残されています。
この儀式は、温泉を引く旅館や地元の方々の交流の場にもなっています。温泉という共通の財産を分かち合い、地域の絆を再確認するひとときは参加者の間に笑顔や会話を生み、温かな雰囲気をもたらします。
神湯祭を通じて見えてくるのは、温泉がもたらす癒やしや豊かさだけでなく、人と人、人と自然をつなぐ“結びの力”です。ローカルな地縁を大切にする祭事に触れることで、いつもの箱根旅行とはまた違った感動に出会えることでしょう。
祭りを訪れるには(日時・アクセス)
神湯祭は、例年9月9日に熊野神社で開催されます。午前11時30分ごろから神事が始まり、午後には湯汲神事が執り行われるのが一般的です。神事が終了した夕方からは縁日が開かれ、訪れる人々で賑わいを見せます。
会場となる熊野神社は、箱根登山電車「箱根湯本駅」から徒歩約10分の場所にあります。駅前の商店街を抜け、湯本橋を渡った先に静かにたたずむ小さなお社で、散策を楽しみながら立ち寄れるのも魅力のひとつです。
神社の所在地:神奈川県足柄下郡箱根町湯本614
詳細な行事の内容や時間帯については、箱根町観光協会や地元旅館の案内所などで事前にご確認ください。
湯の町の心に触れる、特別な一日
神湯祭は、温泉の恵みへの感謝と祈りを今に伝える、箱根ならではの行事です。地域に根ざした信仰と伝統が現代にも大切に受け継がれていることを実感できる、貴重な一日をご紹介しました。
巫女の舞や、手桶に揺れる湯の音。温泉を分かち合う、やさしい空気。どの瞬間にも、鎮守の神に捧げる真心が伝わってきます。
神湯祭を訪れれば、日常とは異なる静かで力強い祈りに出会えることでしょう。湯の町の心に触れる特別なお祭りに、足を運んでみてはいかがでしょうか。

